ヒトケイバツレイ
ここ数日,とある洋書を読んでいます。入手したのは留学中,欧米の研究の中では名の知られた存在で,何れの論稿も直・間接的に係っているので,参考にしようと出版社へ直接注文して取り寄せたものです。しかしいざ目を通そうとする度に,その表現の難しさにお手上げとなってしまい(単に集中力がないだけか),長らく傍らに置きっぱなしとなっていました。
先日,準備中の論稿の参考として,その中の一論文を軽く流し読みしたら,従来日本で知られている研究とは異なる視点・枠組みで書かれているのに気付きました。その面白さに今更ながら気付かされ,それで取り掛かったという次第です。
上記の「(表現の)難しさ」とは,単に学術論文によく見られるような英語表現・語彙の難しさということなのですが,今回扱っている論稿のような歴史系の場合,別の「難しい」側面を持っています。
ある箇所に,以下のような表現がありました。
The upshot of this controversy was a compromise, reached in 1896, whereby the Imperial Diet passed the "Law concerning Laws and Regulations to be enforced in Taiwan"(hereafer abbreviated as LLR of Taiwan).
日清戦争の終結により,日本は台湾を領有することとなりました。その時日本の政界では,植民地に設置される支配機構の法的地位と帝国憲法との関係が一つの政治問題となっており,この論稿はそれを論じたものです(本文中の「controversy」(論争)がその「政治問題」のこと)。ここにある「Law~」は,直訳すれば「台湾で施行される法・規則に関する法」となります。実際には「台湾ニ施行スヘキ法令ニ関スル法律」(明治29年法律第63号)のことで,「法令」を「法律(laws)」「命令(regulations)」と訳しているところに,苦心がにじみ出ているようです。
一般にこの類の専門用語は翻訳が難しく,かなり研究者泣かせな存在です。別の箇所で「The Taiwan Affair Bureau」のメンバーとして「Chef Cabinet Clerk」という肩書きの「Ito Miyoji」なる人物が登場しています。多少なりとも日本近代史を勉強された方なら,「Ito Miyoji」が伊藤博文の腹心「伊藤巳代治」(1857~1934)であることは容易に理解できるでしょう。しかしもし彼の経歴を知らなかったら,「Chef Cabinet Clerk」「The Taiwan Affair Bureau」の「正式名称」(「意味」ではない)は全く想像できません。つまりこの類のものを外国語で読む場合,単に外国語の意味だけに留まらず,その内容に関する予備知識も必要となってきます(ちなみにそれぞれ「書記官長」「台湾事務局」)。
とある事例として「Ritsurei No.24, 1898, Hito Keibatsurei(Bandit Punishment Ordinance)」なる語。「ヒトケイバツレイ」?(「人」?),仮に日本語が併記されていても,漢字がない限り意味不明の場合もあります・・。ちなみに「ヒト」は「匪徒」,当時の治安関連文書で使用されていた「専門用語」の一つです(「明治31年律令第24号」のこと)。「律令」は,台湾で定められた法規を指すものです。



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